ジオ農地

相続土地国庫帰属制度が使えない土地 — 農地で引っかかる10要件と申請前の自己チェック

最終更新: 2026-08-21

「相続土地国庫帰属制度は使えない」と検索する人の多くは、制度の批判ではなく 「自分の土地が門前払いの要件に当たるのか」を知りたいはずです。 この記事は、法律(相続土地国庫帰属法)と政令が定める要件を条文どおりに並べ、 田んぼ・畑で実際に引っかかりやすいポイントを農地の実務に引き寄せて解説します。 負担金の計算は負担金はいくらか(計算機つき)、 制度の全体像は相続土地国庫帰属制度は農地で使えるかへ。

まず数字 — 「使えない」は審査より手前で決まっている

法務省統計(令和8年7月31日現在)によると、申請5,863件に対して帰属3,008件、 却下85件・不承認96件です。審査まで進んだ土地の大半は通っています。 一方で取下げは1,102件あり、そのうち392件は「却下・不承認であることが判明した」ための 取下げです。つまり使えないケースの多くは、審査結果ではなく 事前相談や書類準備の段階で判明しています。 手数料(1筆14,000円)は取下げでも戻らないので、申請前に要件を自分で点検しておく価値があります。

申請できない土地(却下要件)— 法2条3項

次のいずれかに当たる土地は、そもそも申請ができません(申請すれば却下され、手数料は戻りません)。

#要件(条文の趣旨)農地で引っかかるポイント
1 建物がある土地 農業用倉庫・作業小屋・納屋。登記のない古い小屋でも「建物」に当たれば対象外。 解体してから申請する
2 担保権、または使用・収益を目的とする権利が設定されている土地 農業融資の抵当権。賃借権・使用貸借・利用権設定で人に耕作してもらっている農地は ここに当たる。農地バンクに貸している間は申請できない。口約束の貸し借りも整理が必要
3 通路その他の他人による使用が予定される土地が含まれる土地 (政令2条: 現に通路として使われている土地、墓地内の土地、境内地、 現に水道用地・用悪水路・ため池として使われている土地) 筆の中に農道や水路が通っている、隣の人が通路に使っている、 筆の一部がため池・用水路になっている。公図上の「道」「水」(赤道・青線)が絡む区画は要確認
4 基準を超える特定有害物質で土壌汚染されている土地 農地では稀だが、工場跡地や埋立て履歴がある場合は注意
5 境界が明らかでない土地、その他所有権の存否・帰属・範囲に争いがある土地 農地の公図は明治由来の「地図に準ずる図面」が多く、筆界未定地や 畦畔の位置を巡る隣接者との食い違いが典型。境界の確認が最初の壁になりやすい

このほか、申請できるのは相続・遺贈(相続人に対するもの)で取得した人に限られます (法2条1項)。生前に贈与で受けた土地や、売買で買った土地は対象外です。 共有地は共有者全員で申請します(売買で持分を取得した共有者も、相続で取得した共有者と 一緒なら申請に加われます)。

承認されない土地(不承認要件)— 法5条1項

申請はできても、審査で次のいずれかに当たると承認されません。

#要件(条文の趣旨)農地で引っかかるポイント
6 (勾配30度以上かつ高さ5m以上 — 政令4条1項)があり、 通常の管理に過分の費用・労力を要する土地 山際の棚田・段畑の法面。勾配と高さの両方を満たすかがポイント。 当サイトの傾斜表示は区画全体の目安で、崖の判定には現地確認が必要
7 通常の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上にある土地 耕作放棄で伸びた雑木・竹ビニールハウスの骨組み・柵・電気柵、 放置された農機。撤去・伐採してから申請する。程度の問題なので事前相談で確認
8 除去しなければ管理・処分できない有体物が地下にある土地 古い基礎・浄化槽・廃棄物の埋設。暗渠排水管のような通常の農地の設備は 一般に管理を阻害しないとされるが、個別に確認
9 隣接地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分できない土地 (政令4条2項: 袋地で現に通行が妨げられている、使用収益が現に妨害されている) 進入路を巡るトラブル、隣地から越境している構造物の撤去を拒まれている、など
10 その他、通常の管理・処分に過分の費用・労力を要する土地(政令4条3項)
  • 土砂崩壊・地割れ・陥没・水や汚液の漏出等の災害のおそれがあり、被害防止の措置が必要
  • 鳥獣・病害虫等により周辺の人・農産物・樹木に被害が生じ(るおそれがあ)る
  • 森林で、市町村森林整備計画に適合させるため追加の造林・間伐・保育が必要
  • 国庫帰属後に国が(通常の管理費以外の)金銭債務を負担することが確実
  • 申請者が負担している金銭債務を国が承継することになる
土地改良区の賦課金が発生する田んぼは最後の2項目に関わる(個別判断)。 イノシシ・シカの被害が常態化した地域の畑は鳥獣の項目に注意。 谷地田の湿地・崩れやすい法面は災害の項目

申請前の自己チェック表 — 農地版

法務局の事前相談には「チェックシート」があります。窓口に行く前に、自分で確認できる範囲を 埋めておくと相談が一度で済みます。

確認項目どこで分かるか当たると
相続(遺贈)で取得した土地か 登記事項証明書の「原因」欄、遺産分割協議書 相続以外なら申請不可
抵当権・賃借権などの登記はないか 登記事項証明書(乙区) 抹消・解消してから(要件2)
誰かに耕作してもらっていないか(口約束・利用権設定・農地バンク) 農業委員会(農地台帳)、本人の把握 解消してから(要件2)
筆の中に農道・水路・ため池はないか 公図、現地。当サイトの区画形状も目安 申請不可(要件3)。分筆で切り離せるかを検討
境界は明確か(筆界未定地でないか・隣と揉めていないか) 法務局(公図・地積測量図)、隣接所有者 申請不可(要件5)。境界確認→場合により測量
建物・ハウス骨組み・柵・放置農機・雑木はないか 現地 撤去・伐採してから(要件1・7)
崖(30度以上かつ5m以上)はないか 現地。当サイトの傾斜区分は区画全体の目安 不承認のおそれ(要件6)
土地改良区の賦課金はかかっているか 土地改良区、納付書 要確認(要件10)。負担金も面積算定になる
市街化区域・農用地区域か(負担金の見積もり) 当サイトの地図→ 市町村で確定 使えなくはならないが負担金が面積算定に → 計算機

「使えない」と分かったときの3つの道

  1. 障害を取り除いてから再検討する — 貸借の解消、建物・樹木の撤去、境界の確認、抵当権の抹消。費用と負担金の合計が 見合うかを負担金の計算機で先に確かめる
  2. 貸す・売る農地バンクに貸す(借り手がいる地域かどうかがカギ)、 農地のまま売る・転用して売る
  3. 持ち続けてコストを最小化する固定資産税の目安は一般農地なら年数千円規模。 ただし勧告を受けた遊休農地は約1.8倍になる

どの道が現実的かは、区域・農用地区域・接道・現況で変わります。 農地の出口チェック(無料・5問)で、 あなたの条件で言えることと最初の一歩を整理できます。

よくある質問

相続土地国庫帰属制度が「使えない」のはどんな土地ですか?

申請自体ができない却下要件が5つ(建物がある、担保権や賃借権などが設定されている、通路・墓地・境内地・水道用地や用悪水路・ため池として使われている、基準を超える土壌汚染、境界が不明確または所有権に争いがある)と、審査で承認されない不承認要件が5つ(勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖、管理を阻害する工作物・車両・樹木、地下の埋設物、隣接地との争訟が必要、その他管理に過分の費用がかかる土地)あります。また、売買で買った土地など相続以外で取得した土地は申請できません。

人に貸している田んぼは申請できますか?

できません。賃借権・使用貸借・利用権設定などの使用収益権が設定された土地は却下要件です。口約束で近所の農家に耕作してもらっている場合も、申請前に貸借関係を解消しておく必要があります。

荒れて雑木が生えた畑は不承認になりますか?

なりうるケースです。土地の通常の管理・処分を阻害する樹木や工作物が地上にある土地は不承認要件に当たり、伐採や撤去を済ませてから申請することになります。ただし程度の問題なので、事前相談で法務局に状況を伝えて確認してください。

土地改良区の賦課金がかかる田んぼは?

注意が必要です。国庫に帰属した後に国が法令に基づく処分によって金銭債務(通常の管理費用以外)を負担することが確実な土地、申請者が負担している金銭債務を国が承継することになる土地は、不承認要件に当たります(施行令4条3項)。土地改良事業の賦課金がこれに当たるかは個別判断なので、土地改良区と法務局に確認してください。

実際に却下・不承認になる割合はどれくらいですか?

法務省統計(令和8年7月31日現在)では、帰属3,008件に対し却下85件・不承認96件です。ただし取下げ1,102件のうち392件は「却下・不承認であることが判明した」ための取下げで、審査の前に使えないと分かるケースのほうが多いのが実態です。事前相談の段階で要件を確認することが重要です。

使えないと分かったら、農地はどうすればいいですか?

主な代替策は、農地バンクを通じて貸す、近隣の農家や農業法人に売る(農地法3条許可)、立地次第で転用して売る、の3つです。建物や樹木の撤去、境界の確定、貸借の解消など、要件の障害を取り除いてから再度検討する道もあります。どれが現実的かは農地の区域・接道などの条件で決まるので、農地の出口チェックで整理してください。

出典: 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)2条・4条・5条、 同法施行令(令和4年政令第316号)2条・4条、 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」 「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年7月31日現在。 いずれも2026年8月21日閲覧)。要件への該当性は法務局の審査事項であり、当サイトは判定を行いません。 当サイトの傾斜・区域・区画形状の表示は公的オープンデータによる参考情報です。

本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の手続きは必ず市町村の農業委員会等の窓口でご確認ください。