ジオ農地

相続土地国庫帰属制度は農地で使えるか — 要件・負担金・「使えない」ケースの先回り確認

最終更新: 2026-08-02

「相続した農地を国に返せる制度がある」—— 相続土地国庫帰属制度(2023年4月開始)は、使い道のない土地を手放す選択肢として 注目されていますが、どの農地でも使えるわけではありません。 申請しても審査手数料(1筆14,000円)は戻らず、引き取ってもらえる場合も負担金がかかります。 この記事は制度全体の解説ではなく、「あなたの田んぼ・畑で使えそうか」を申請前に見積もることに絞って整理します。要件を1つずつ点検したい方は 使えない土地の10要件と自己チェック、 金額を見積もりたい方は負担金の計算式と計算機へ。

相続土地国庫帰属制度とは(3分版)

もうひとつ知っておきたい数字があります。申請の取下げ1,063件のうち 562件は「有効活用の見込みが立った」ことによる取下げです。 つまり、国庫帰属を検討・準備する過程で貸す相手や買い手が見つかるケースが相当数あります。 手放す前提でも、農地バンクに貸す可能性は 並行して確認する価値があります。

農地で「使えない」典型パターン

申請できない要件(却下要件5つ)と、審査で承認されない要件(不承認要件5つ)が 法律で決まっています。農地の実務で問題になりやすい順に並べると次のとおりです。

  1. 境界が明らかでない — 農地の公図は明治時代由来の「地図に準ずる図面」であることが多く、境界の確認が最初の壁に なりがちです。筆界未定地は典型的な該当例です
  2. 人に貸している・耕作してもらっている(使用収益権の設定)— 利用権設定や賃貸借のある農地は対象外です。口約束で近所の農家に耕作してもらっている場合も 整理が必要です
  3. 建物・工作物がある — 農業用倉庫・小屋などの建物がある土地は申請できません。ビニールハウスなどの工作物も、 管理・処分を阻害するものは不承認要件に当たりえます
  4. 崖・急傾斜 — 勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖があり、管理に過分の費用・労力がかかる土地は 承認されません
  5. 担保権が付いている — 融資の抵当権が残っている場合など
  6. 他人の利用が予定されている — 通路・水路として使われている部分がある場合など。公図上の「道」(赤道)や「水」(青線)が 絡む区画は確認が必要です
  7. その他、管理・処分に過分の費用がかかる場合 — 隣接地との争いがある、除去が必要な埋設物がある、など

負担金 — 原則20万円が「面積比例」に跳ねる3つの条件

負担金は10年分の標準的な管理費用に相当する額で、原則は1筆20万円です。 ただし田・畑では、次のいずれかに当てはまると面積に応じた算定になり、 広い農地ほど高額になります。

  1. 市街化区域または用途地域の指定地域内にある
  2. 農用地区域(いわゆる青地)内にある
  3. 土地改良事業(等)の施行区域内にある

このうち1と2は、当サイトの地図で筆単位に確認の見当を付けられます。 区域区分(市街化区域か否か)は都市計画データで、農用地区域は参考データ (内容年次が古いため市町村への確認が必須)で表示しています。 3の土地改良事業の区域は全国的な公開データが存在しないため、市町村または土地改良区への 照会が必要です。正確な負担金額は、法務省が配布する自動計算シート(Excel)で確認できます。

節約の余地もあります。同じ種目の隣接する2筆以上は、合算して一筆分の負担金 にできます。相続した田が数筆並んでいる場合は、隣接関係を地図で確認してみてください。 算定式(10aなら1,128,000円など)と合算の効果は 負担金の計算機で確かめられます。

申請前チェックリスト — あなたの農地で確認する順番

確認することどこで
1 貸していないか・抵当権は残っていないか 登記事項証明書(法務局)
2 市街化区域/用途地域・農用地区域の可能性(負担金の見積もり) ジオ農地の地図・検索(無料)→ 市町村の農政・都市計画担当課で確定
3 土地改良事業の区域か・賦課金の有無 土地改良区 / 市町村
4 境界の状況(公図の素性・筆界未定地でないか) 法務局(公図)。当サイトの推定地番・登記筆表示も参考になります
5 崖・急傾斜、建物・工作物の有無 現地確認(地図の傾斜表示は参考)
6 事前相談(相談票・チェックシート) 法務局(本局)の相談窓口・予約制

使えないと分かったら — 代わりの選択肢

要件に当たって使えない場合や、負担金が見合わない場合の主な選択肢は次の4つです。 詳しくは農業をしない人の農地相続 — 6つの選択肢と期限 で整理しています。

よくある質問

田んぼでも相続土地国庫帰属制度は使えますか?

使えます。田・畑は申請全体の約39%を占める地目別最多で、農用地の帰属実績も925件あります(令和8年6月30日現在・法務省統計)。ただし要件と負担金の面積算定条件は田・畑共通で適用されます。

申請は自分でできますか?

できます。申請できるのは相続等で土地を取得した本人(共有地は共有者全員)で、申請書類の作成を代行できるのは弁護士・司法書士・行政書士に限られます。法務局(本局)で事前相談(予約制)を受けられます。

「10年分の負担金」は10年後にどうなりますか?

「10年分」は負担金の算定の考え方(国有地の種目ごとの標準的な管理費用10年分相当)であって、10年後に土地が返還されたり、追加の管理費を請求されたりする制度ではありません。

農業委員会の許可(農地法3条)は必要ですか?

国庫帰属の審査・承認は法務局(法務大臣)が行い、農地法3条の許可手続きは必要ありません。国が権利を取得する場合は許可を要しないとされているためです。

却下されたら審査手数料は戻りますか?

戻りません。審査手数料(土地一筆あたり14,000円)は、申請の取下げや却下・不承認の場合でも返還されません。だからこそ申請前の見積もりが重要です。

まずは自分の農地の「区域」を見る

負担金が20万円で済みそうか、面積比例になりそうかの見当は、農地の区域を見れば付きます。 農地を探す(地図・検索)で市町村名から対象の区画を表示し、 区域区分と農用地区域の欄を確認してください。

出典: 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」「相続土地国庫帰属制度の負担金」「相続土地国庫帰属制度の統計」(統計は令和8年6月30日現在。いずれも2026年8月2日閲覧)。 国庫帰属の可否は法務局の審査事項であり、当サイトは該当性の判定を行いません。 当サイトの区域表示は公的オープンデータによる参考情報で、農用地区域(A12)は内容年次が 古いため、確定には市町村への照会が必要です。

本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の手続きは必ず市町村の農業委員会等の窓口でご確認ください。