ジオ農地

耕作放棄地を借りる・買うには — 探し方・手続き・再生費用の考え方

最終更新: 2026-08-23

規模拡大や新規参入で「まとまった農地が欲しい」と考えたとき、候補に上がるのが耕作放棄地です。 使われていない農地は全国にありますが、「どこに・どれだけあるか」を知る方法と、 「借りる・買う」ための手続きは意外と整理されていません。 この記事では、用語の違いを押さえたうえで、探し方の順番、農地法の手続き、再生費用の見積もりの考え方と 支援制度を、農林水産省の一次資料に沿ってまとめます。 貸す側の視点は農地バンクに貸すにはを参照してください。

用語の違い — 耕作放棄地・遊休農地・荒廃農地

似た言葉が3つありますが、誰が・何を根拠に・どう調べたかが違います。 借りる・買う側にとって実務上の入口になるのは、農業委員会が把握している「遊休農地」「荒廃農地」です。

用語根拠定義(要旨)誰がどう調べるか
耕作放棄地 農林業センサス(統計) 以前耕作していた土地で、過去1年以上作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地 農家の自己申告(主観ベース)。5年ごと。2020年センサス以降は調査項目から削除(最新値は2015年の42.3万ha)
遊休農地 農地法第32条(法律) 1号: 現に耕作されておらず、引き続き耕作されないと見込まれる農地
2号: 周辺の農地に比べ利用の程度が著しく劣る農地
農業委員会の利用状況調査(毎年、第30条)で客観的に判定。利用意向調査などの措置の対象
荒廃農地 荒廃農地の発生・解消状況に関する調査 現に耕作されず、放棄により荒廃し、通常の農作業では栽培が客観的に不可能な農地。再生利用が可能なもの(=1号遊休農地)と再生利用が困難なもの(森林の様相など)に区分 市町村・農業委員会の現地調査(客観ベース)。毎年

規模感を押さえておくと、2025年3月末時点の荒廃農地は全国で25.7万ha(再生利用が可能 9.8万ha、困難 15.9万ha)、 遊休農地は10.5万haです。2024年度の1年間で新たに2.4万haが発生し、再生利用されたのは0.8万haでした(農林水産省)。 発生原因は、土地側では「山あいや谷地田など自然条件が悪い」、所有者側では「高齢化・病気」「労働力不足」が上位で、 中山間地域では鳥獣被害の割合が高くなっています。 つまり放棄地の多くは条件不利地にあり、「再生可能」とされる区画でも立地の選別が要る、というのが前提です。

探し方 — 公的な窓口から机上スクリーニング、現地確認へ

探す順番は「窓口に希望を出す」「机上で候補地域を絞る」「現地を見る」「接触は窓口経由」です。 所有者を自分で調べて直接当たる方法は、個人情報と公的データの利用規約の両面で勧められません。

手段分かること限界
農業委員会(市町村) 利用状況調査・利用意向調査で把握した遊休農地の所在と、所有者の意向(貸したい/自分で耕作/未定)。あっせんの相談窓口 意向調査の結果は公開情報ではないため、借受希望者として相談する必要がある
農地バンク(農地中間管理機構・都道府県に1つ) 借受希望者の登録、地域計画に基づくマッチング。遊休農地を借り受けて簡易整備のうえ貸し付けることもある 地域計画に位置付けられていない農地、営農条件の悪い農地は扱われないことがある
自治体の空き農地情報・農業参入支援センター 参入企業向けに候補地や支援策を案内している都道府県・市町村がある 自治体により情報量に差が大きい
eMAFF農地ナビ(map.maff.go.jp) 農地台帳に基づく区画ごとの公的情報(地番・地目・遊休農地の判定・所有者の貸付意向など)を公式に確認できる 広域の候補地域の絞り込みや横断的な条件比較には向かない。営利目的での利用は同サイトの規約で禁止
机上スクリーニング(ジオ農地) 市町村単位で「使われていない可能性」「まとまり」「接道」「傾斜」「集落の借地動向」を重ね、現地確認の優先順位を付ける 衛星推定はベータで誤判定あり。可否・権利関係は分からない
  1. 農業委員会・農地バンクに「借りたい・買いたい」を登録する — 希望地域・面積・作目・借りるか買うかを伝え、借受希望者として登録します。市町村が進める 地域計画(誰がどの農地を耕作するかの目標地図)の話し合いに乗せてもらえるかが最大のポイントです。 2025年度からは農地バンクの貸借は地域計画に基づくものに一本化されています。
  2. 机上で候補地域を絞る — 窓口に「どこでも良い」と言っても話は進みません。ジオ農地の 候補地スクリーニングは、筆ポリゴン(農林水産省)の区画形状に、 衛星(Sentinel-2)のNDVI時系列から推定した「非耕作の可能性」、一団の農地のまとまり、接道、傾斜、 農林業センサスの集落ごとの借地動向を重ね、市町村単位で候補区画を並べます。 「非耕作の可能性」は当サイト独自の推定(ベータ)で、ビニールハウスやマルチ栽培、 果樹園・牧草地を非耕作と誤判定することがあるため、現地確認の優先順位づけとして使ってください。
  3. 現地を見る — 荒れ方(草本のみか、灌木が入っているか、樹林化しているか)、機械の搬入路、水路・排水の状態、 隣接地の耕作状況、獣害の痕跡を確認します。再生費用の見積もり(後述)はここで決まります。
  4. 所有者への接触は窓口経由で — 目星が付いた区画は、地番を控えて農業委員会か農地バンクに相談します。 所有者の意向確認やあっせんは農業委員会の業務で、所有者が分からない農地にも公示・裁定の手続きがあります。

手続き — 農地法3条許可と利用権設定

耕作放棄地であっても農地である以上、耕作目的で借りる・買うには農地法の手続きが必要です。ルートは2つあります。

農地法3条許可(農業委員会) — 買う場合、相対で借りる場合

要件と申請の流れの詳細は農地法3条許可とはへ。

農地バンク経由の利用権設定 — 借りる場合の主流

登録から成立までの流れは利用権設定と農地バンクの使い方へ。

遊休農地に関する農地法の措置 — 借り手にとっての意味

農業委員会は毎年の利用状況調査(第30条)で遊休農地を把握し、所有者に利用意向調査(第32条)を行います。 所有者が意向どおりの取組をしない場合は農地バンクとの協議を勧告(第36条)し、最終的には都道府県知事の裁定で 農地バンクが利用権を取得できます。勧告を受けた農業振興地域内の遊休農地は固定資産税の評価で0.55を乗じない扱いとなり、 結果として税額が約1.8倍になります(2017年度から)。 この仕組みがあるため、所有者側にも「貸す」動機が制度的に用意されており、借受希望を登録しておけば 農業委員会・農地バンクからあっせんが来る可能性があります。

再生費用の考え方 — 相場ではなく内訳で見積もる

「耕作放棄地の再生費用はいくらか」に一律の答えはありません。国の調査も、再生作業の内容を 「抜根、整地、区画整理、客土等」と例示したうえで、森林の様相を呈しているものなどは 「再生利用が困難」と別区分にしています。見積もりは次の内訳で組み立てるのが基本です。

  1. 支障物の撤去 — 雑草・灌木の刈り払い、抜根、廃ハウス・廃資材の撤去。樹林化していれば伐採・抜根で桁が上がる
  2. 整地・客土 — 表土の状態、畦畔の復旧、田なら均平。長年の放棄で地力が落ちていれば土壌改良資材の投入
  3. 水利・排水 — 水路・暗渠・取水設備が生きているか。周辺が荒れていると水が来ないことがある
  4. アクセス — 接道の有無と道幅。機械が入れない区画は人力作業になり費用が跳ねる。これは机上スクリーニングの「接道」条件で事前に絞れる
  5. 鳥獣害対策 — 中山間地域では柵・電柵が前提になることが多い
  6. 再生後の営農 — 再生して終わりではなく、地域計画への位置付けや5年以上の継続耕作が支援事業の要件になる

※ 再生費用は区画の状態で大きく異なるため、当サイトでは金額の目安を示しません。 現地確認後に、上記の内訳ごとに地元の土木・造園業者や農地バンクに見積もりを依頼してください。

支援制度 — 名称と入口だけ押さえる

補助率・上限・要件は年度ごとの公募要領で変わるため、ここでは名称と概要のみ記します。 いずれも市町村・都道府県・農地バンクを通じて申請するものが中心で、借り手が単独で直接申請する形ではない点に注意してください。

借りるか、買うか

借りる(農地バンク・利用権設定)買う(3条許可)
手続き 農地バンクに登録→地域計画に基づくマッチング→促進計画の公告(3条許可不要) 農業委員会へ3条許可申請→許可→所有権移転登記
法人の場合 一般法人でも解除条件付き貸借で可能 農地所有適格法人であることが必要
向いているケース 初期投資を抑えたい、まとまりを優先、まず地域に入りたい 長期の投資(樹園地・施設)を見込む、所有でなければ融資や整備が進まない
注意点 期間は長め(10年以上を求められることがある)。地域計画外の農地は扱われにくい 資産保有目的とみなされると不許可。再生費用は自己負担が基本

いずれの場合も、候補地域→現地→窓口の順で進めると手戻りが少なくなります。 農業法人・参入企業向けの初動調査の進め方は農業法人・農業参入企業向けページにまとめています。

よくある質問

耕作放棄地と遊休農地、荒廃農地は何が違いますか?

「耕作放棄地」は農林業センサスの統計用語で、農家の自己申告(主観ベース)による区分です(2020年センサス以降は調査項目から外れています)。「遊休農地」は農地法第32条の法律用語で、農業委員会が毎年の利用状況調査で客観的に判定し、利用意向調査などの措置の対象になります。「荒廃農地」は市町村・農業委員会の現地調査で把握する区分で、「再生利用が可能な荒廃農地」は農地法の1号遊休農地と同じものを指します。借りる・買う側にとって実務上の入口になるのは、農業委員会が把握している遊休農地・荒廃農地です。

耕作放棄地は誰でも借りたり買ったりできますか?

農地である以上、耕作目的の取得には農地法第3条の許可(農業委員会)か、農地バンク(農地中間管理機構)を通じた利用権設定が必要です。個人は「取得後にすべての農地を効率的に利用する」「必要な農作業に常時従事する」「周辺の農地利用に支障を生じない」などの要件、法人は農地所有適格法人の要件(所有する場合)か、解除条件付き貸借の要件(借りる場合)を満たす必要があります。2023年4月に下限面積要件は廃止されましたが、資産保有目的の取得は認められません。

荒れた農地の再生にはどれくらい費用がかかりますか?

荒れ方(草本のみ/灌木が侵入/樹林化)、機械が入れるか(接道・道幅)、水利や排水が生きているか、獣害柵が必要かで桁が変わるため、一律の相場はありません。国の「荒廃農地の発生・解消状況」では、森林の様相を呈している等のものを「再生利用が困難」と区分しており、こうした区画は再生より別の出口を考えるのが現実的です。費用は現地で再生作業の内訳(支障物撤去・整地・客土・土壌改良・水路補修)ごとに見積もるのが基本で、農業振興地域内の再生には農山漁村振興交付金(最適土地利用総合対策)の荒廃農地再生支援事業などの支援メニューがあります(補助率・上限は年度ごとの要領で確認)。

所有者が分からない耕作放棄地はどうやって借りますか?

所有者を自分で調べて接触するのではなく、農業委員会に相談してください。農地法では、農業委員会が相当な努力を払って探索しても所有者等を確知できない遊休農地について、公示と都道府県知事の裁定を経て農地バンクが利用権を取得できる手続きが用意されています(第32条・第41条関係)。借り手としては、農地バンクへの借受希望の登録と、市町村の地域計画の話し合いに参加することが近道です。

地図上の「非耕作の可能性」表示は、耕作放棄地という意味ですか?

違います。ジオ農地の「利用状況(衛星推定)」は、Sentinel-2衛星のNDVI時系列から当サイトが独自に算出した推定で、公的な遊休農地判定・荒廃農地調査とは別物です。ベータ版で、ビニールハウス・マルチ栽培・果樹園・牧草地などは「非耕作」寄りに誤判定されることがあります。現地確認の優先順位づけに使い、判断の根拠にはしないでください。

参考(一次資料)

面積・定義は上記資料(2026年8月23日閲覧)に基づきます。候補地スクリーニングの「非耕作の可能性」は Sentinel-2衛星データから当サイトが独自に算出した推定値(ベータ)で、公的な遊休農地判定・荒廃農地調査とは一致しないことがあります。

本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の手続きは必ず市町村の農業委員会等の窓口でご確認ください。